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だだ

Author:だだ
方向音痴で胃腸虚弱で臆病者の旅行好き

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アンジー
アンジー。
オス猫。

初めて会ったときは野良だった。
捨てられて間もないのか人懐こい猫だった。
目がくりくりと大きくて、こんなにかわいい子猫は見たことがないと思った。

ニ度目に会ったのは事故のとき。
車にはねとばされ溝の中に転がっていた。
愛らしい顔が無惨に変わっていた。
頭が割れ、目玉がとびだし、アゴも喉も裂けている。
裂けた喉から声をふりしぼってギャーギャーと鳴いていた。
死にたくない。
死にたくない。
そう叫んでいるように思えた。

動物病院に連れていくと、一度は、
 「頭蓋骨が割れているし・・・まあムリでしょう」
と言われたのだが。
翌日。
電話がかかってきた。
 「奇跡です!」
子猫は生きのびた。

会いにいってみると、生きのびた子猫は、まるでジリスのような顔になっていた。
左目はオレンジ色に濁り、そして異様にアゴが細い。
 「だいぶ骨をさがしてみたんですけど、どうしても足りなくて」
と医者は言った。
それでもジリスのような顔の猫は、私を見てギャーギャーと喜んでくれた。
だけど・・・。
だけど本当はきっと、あの最初の事故で死ぬはずだったんだ。
運命が変わってしまった。
私が変えてしまった。

退院してきた猫を私達がひきとって「アンジー」と名づけた。
アンジーは、ちょっと変わった猫だった。
母に言わせれば
 「最初の事故で頭を打ったせい」
らしい。
自分のことを犬だと勘違いしているフシがあった。
ひとなつこくてお人よし。
呼べば必ずニャアと応える。
友達も犬ばっかりだ。
ご近所の犬たちとはみんな知り合いで、犬の方から尻尾をふって寄ってくる。
隣家のレトリバーとはお腹をなめさせて遊んでいたくらいだ。
そのぶん、うちの猫とはケンカばかりしていたのだけど。

アンジーは買物に行くのが大好きだった。
家から5分のスーパーに、ひょこひょこ歩いてついて来る。
そして私達が出てくるまで忠犬よろしく待っている。
・・・待っている。
何時間でも、待っている。
私達が違うドアからさっさと帰ってしまっても、気づかずに、
  「まだかな、まだかな」
とずーっと座って待っている。
子猫じゃあるまいしいつか帰ってくるだろうと、放っていたら、日が暮れた。
運の悪いことにその夜は嵐だった。
大風!
大雨!
大嵐!
さすがに心配になって探しにいくと、深夜のスーパーの前にちょこんと座って
 「まだかな」
と待っていた。

それでもアンジーは怒らなかった。
およそ怒るということがない猫だったのだ。
いつでもご機嫌。
いつでも愛想よし。
一度だって人間相手に拗ねたり唸ったりすることはなかった。
子供の相手も嫌がらず、たとえ尻尾をひっぱられても、ちょっと振り向いて
 「なんか用?」
と言うだけだった。
渡世術を心得ているというよりは、やっぱり、・・・馬鹿だったんだろう。

馬鹿な証拠に。
一度は死にかけたにもかかわらず、アンジーは車が大好きだった。
趣味はドライブ。
走ってる車を眺めるのも大好き。
あんまり好きすぎて、自分から車に飛び込んでいくくらい。
危ないということが分らないのか、何度ひかれても懲りずにまたひかれた。

でも結局、死んだのは交通事故ではなかった。
奇跡のように蘇り、何度ひかれても元気だったアンジーは、
信じられないような別の事故で死んだ。

我が家には障害者用のエレベーターがあるのだが、年に1度、業者がやってきて点検をする。
アンジーはお客さんが大好きだったから、そのときも業者さんを歓迎しにいった。
そしてエレベーターの機械に巻きこまれてしまった。
みんなが目を離した一瞬のスキに。
足がちぎれ、血まみれのスプラッタ状態。
母とエレベーター業者のおじさんが暴れるアンジーを抱えて動物病院に走り、
もう一人の業者さんがその間に血だまりを掃除し、ちぎれた足をきれいな箱にいれてくれた。
(かわいそうな業者さん・・・)

しかし幸い、
 「足を一本切断しなければならないが、命に別状はない」
と医者に言われた。
家族がお見舞いにいくと、3本足でぴょこぴょこ立っていたという。

だが、その日の夕方。
アンジーは突然死んだ。
また別の事故が起きて死んだ。

手術のあと、麻酔が切れて暴れたんだそうだ。
痛くて、暴れて、点滴のチューブが首にからまって、それで窒息して死んだ。
ちょうど来院患者で忙しくなる時間帯、入院患者の部屋には、たまたま誰もいなかった。
100%医療ミスである。
人間なら裁判沙汰だろう。

だが、私達は怒りもしなかった。
怒ることができなかった。
だってこの病院は、最初の大事故のとき奇跡的に命をつなぎとめてくれた、あの動物病院なのだ。
「奇跡です」と電話をしてきた医者が、今度は「死にました」と涙を流している。
運命だったのでしょうとしか、言えなくなってしまった。

きっと、最初の事故で寿命は尽きていたんだ。
それを私が延ばしてしまった。
何度も何度も事故を起こしたのは、もとの運命にもどそうという引力だったかもしれない。
5年という年月は長くないけれど、その間、私たちはとても楽しかった。
多分、アンジーも楽しかったんじゃないかな。
だから、家族の誰も、恨み言を言わなかった。

・・・でも、3本足で走ってるアンジーも、見てみたかったな。
 

我が家の猫 | 【2007-12-29(Sat) 23:33:31】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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