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Author:だだ
方向音痴で胃腸虚弱で臆病者の旅行好き

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ギーチェ爺ちゃんの食卓
日本からウズベキスタンまで、行くのはわりあい簡単だ。
関西空港から直行便が出ていた。
飛行機で8時間、首都タシケントに降り立った。

・・・行くのは、簡単なのだが。
ここからがちょっと手こずった。
ロシア語圏はは初めてだ。
どこを探しても英語の入国書類が見つからない。
長い時間をかけてビザをとり、
長い時間をかけてリコンファームをし、
長い時間をかけて両替をして、
そのくせアッ!というまに白タクにボラれた。

予約していたホテル『マリカ』に着いたのが夕方5時。
真新しい、ぴかぴかのホテルだ。
晩御飯を7時に頼んで、散歩に出かけることにした。
アットホームなホテルで、
 「絶対ゼッタイ、7時には帰っておいでね!」
と念を押された。
子供みたいで頼りない私を心配してくれたのだろう。

秋のタシケントをそぞろ歩く。
日本より少し寒い。
ソ連時代の産物だろうか、画一的なアパートがならんでいる。
りっぱな並木からは枯葉がはらはらと落ちてくる。
街路樹を見上げながらゆっくり歩いていると、溝と言ってもいいくらいの小川で、網を構えている男の子を見つけた。
こんなドブ川にも何かが棲んでいるのだろうか。
前を歩いていたおじいさんが立ち止まり、私ににっこり微笑みかけて、
 「ブラックバス」
と言った。
魚がいるんだ。

おじいさんの名前はギーチェ。
いかにもロシア人らしい彫りの深い顔立ちと、穏やかな瞳、優しそうな雰囲気の紳士に見えた。
ただ、なにしろ英語が通じない。
「Dog」も「Hotel」もどんな単語も通じない。
ロシア語でぺらぺらとまくしたて、どうやら
 「ついて来い」
って言っているらしいと、ちょっとついて行ったなら!
誘拐された。
拉致られた。
停まっていたタクシーの中にぐいぐい押し込まれた。
白昼堂々、何するねん!
あの時はさすがにびっくりした。

言葉が分らないので泡をくったけど、ギーチェじいちゃんは悪い人じゃなかった。
ただ、遠い国から来た私と知り合いになって、夕飯もご馳走してくれようって、それだけのつもりだったのだ。
そんなこととは知らない私。
ロシア語会話集を開き、必死で問うてみた。
  「グチェ?(どこ?)」
  「わしの家」
タクシーを下りて、角を曲がってアパートの部屋に案内された。
部屋にあがるとベッドが2つ。
・・・ほっとした。
家族がいるんだ。
10畳くらいの居間には、床にも壁にも一面に赤い絨毯が広げられていた。
その芸術的な美しさに目を奪われていると、
 「わしのママだ」
と、相当なお年のおばあちゃんを紹介された。
来客には関心がなさそうで、ひたすらTVに見入っていた。
耳も遠いし、ひょっとしたら呆けているのかもしれなかった。

ギーチェじいちゃんは私をキッチンに連れていった。
 「夕食を食っていけ」
夕食はホテルに頼んであったし、7時には帰るようにとしつこく念を押されていたことを思いだしたが、断れる状況じゃなかった。
断っても許してくれる人じゃなかった。
献立は、
トマトと生タマネギのサラダ。
パンと甘いケーキ。
昨日のチキンをぶっかけた、ラグマン(うどん)。
どれもおいしく、本当に楽しい食卓だった。
が。
なにしろ言葉が通じない。
会話はすべて身振り手振り。
だが、国が違えばジェスチャーも違ってくる。
爺ちゃんが唇を指差すので、「旨いか?」と尋ねられたと思い、
  「旨い」
と肯くと、タバコを持ってこられた。
また、のどを指差すので意味がわからず首をかしげたら、ウォツカ持ってきて
  「飲め」
と言う。
アルコール40度の液体をストレートでグラスに注いで「さあ飲め」。
死んでしまいそうなので、さすがにこれは断った。

黄色くなった古い写真の束も見せてくれた。
家族の写真。
いろんな時代の家族の肖像だ。
爺ちゃんの若い頃の写真もあって、軍服姿がものすごくカッコよかったので
  「ハラショー!」
と褒め称えると、爺ちゃんは喜んで、いきなりほっぺたにスリスリしてきたので驚いた。
・・・ヒゲ、じょりじょり。
この写真はママの若い頃。
これは息子のコーシカ。
これは死んだ祖父の葬式。
これはワシの奥さん。
でも奥さんも息子ももう亡くなっているようだった。

そうこうしているうちに7時をまわった。
ホテルの人たちを心配させてはいけないから、そろそろ帰らねば。
だが爺ちゃんは
  「ぜひ泊まっていけ」
と言う。
私はまた会話集をひっぱり出す。
  「ニェート(NO)、ガスチーニツァ(ホテル)」
  「いや、泊まってけ」
  「ガスチーニツァ、ガスチーニツァ」
  「まあまあ、そう言わずに」
爺ちゃんは寂しいのだと、そのとき初めて気がついた。
奥さんも息子も死んでしまって、私はめったにない来客なのだ。
そして日本にいる祖父を思いだした。
祖父も、私が帰るときは今のギーチェと同じような目をして引き止めようとしていたっけ。
ギーチェ爺ちゃんも、寂しいんだ。
だから私を家に招いたんだ。
このドアを出たらもう二度とこの人には会えない。
つむじ風のように通りすぎていく、旅人でしかない自分がちょっと申し訳ない気がした。

それでも私は去らねばならない。
やっとのことで外に出ると、もう真っ暗になっていた。
送ってあげようと爺ちゃんは言う。
  「角を曲がって四軒目だ。角は散髪屋なんだ。
   タシケントに来たら、忘れずにまたおいで」
そうしてなぜか角の散髪屋に入る。
まるで時間稼ぎのように。
爺ちゃんは髪を整えて、格好つけてみたりしている。
散髪屋は楽しげに
 「ジャパン・ハラショー、合気道!」
とか言うておる。
そして3人で記念撮影をする。
約束の7時はもうとっくにまわっている。

やっとこさっとこ散髪屋を出て、道でタクシーを捕まえる。
手をとりあって、抱き合って、頬すりすりして、涙の別れというやつである。
でも私はと言えば、タクシーに押し込まれて以来びっくりしっぱなしで、わけがわからなくて、感情がついてこなかった。
ただ、ギーチェ爺ちゃんがとてもいい人で寂しいんだということしか、わかっていなかった。

ウズベキスタン | 【2008-01-03(Thu) 20:34:25】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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