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Author:だだ
方向音痴で胃腸虚弱で臆病者の旅行好き

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言えなかった「ありがとう」
モンゴルの牛のことを書いてたら、思い出した。
いきなり思い出した。
ずーっと忘れていたことを。

数年前、ツアーでモンゴルへ行ったとき。
食中毒で倒れた。
博物館に入ったとたんに
 「うっ!」
と来た。
吐き気満開。
もう恐竜の化石とか楽しんでる場合じゃなかった。
脂汗がタラタラ流れてくる。

添乗員さんがバスを呼びにいくあいだ
私は控え室のソファで休むように言われた。

小さな控え室には先客がいた。
モンゴル人のおばあちゃんで
家族に連れられてきたのだけれど足が疲れて休んでいるという様子だった。
  「気分が悪いのかい?」
と、おばあちゃんが言った。
モンゴル語だけど多分そう言った。
だけど私は吐き気と戦ってる真最中だったから
答えるどころか顔を上げることすらできない。
うつむいて、ビニール袋を握り締め、耐えてるだけで必死だった。

おばあちゃんは私の隣に座り、私の手をとった。
そして歌いだした。
おまじないの歌だ。
子守唄のような。
お経のような。
心を落ち着かせる調べだった。
歌いながら、私の手に模様を描いた。
かなり複雑な模様で、
おばあちゃんの指が手の平から甲へとなぞっていき
少しこそばいようだった。
きっと昔から伝わる遊牧民の呪文をほどこしてくれたんだと思う。
だけど折角の呪文の途中で、私に「ウエエ~」の波が来て
ビニール袋を開けるためにおばあちゃんの手を振り払ってしまったのだ。
呪文は途中で破れてしまったかもしれない。
それでもおばあちゃんは嫌な顔ひとつせず、
私の背中をずっとなでてくれていた。
優しい低い声で話しかけながら。

この時は体が辛すぎて声も出せなかったし
その後もっと酷くなったせいで
おばあちゃんのことはすっかり忘れていた。
もう7年もの間。
それを突然、思い出した。
手の平に施された呪文を。
不思議な節のついた歌を。
それから、背中をさすってくれたあったかい手を。
リアルに思い出したのだ。

おばあちゃんは元気でいるだろうか。
もう2度と会うことは叶わないけれど、
優しいおばあちゃんに、あのとき言えなかった「ありがとう」を、いま心の中で言おう。

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トラブル! | 【2009-01-04(Sun) 22:08:07】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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